直感とセンスを司る「上丹田」

丹田には「上中下」の3つの丹田があるとされています。
身体を司る「下丹田」、心や感情を司る「中丹田」、そして直感やインスピレーションを司る「上丹田」です。
今回はこの「上丹田」についてお話しします。

直感とインスピレーションを覚醒させる「上丹田」

「上丹田」の位置は眉間の奥で、左右の中心にあります。
インドのヨガでは「アジナーチャクラ」と呼ばれている部位です。
解剖学的には脳の中枢である視床下部などの辺縁系の領域を指します。
この中枢脳は、生物進化の中でも初期に形成されたものであり、そういう意味では原始的な脳の領域と言えます。
人間は進化するにしたがって、脳を外へ外へと肥大化させてきました。
よって外側にいくほど、人間の特徴的な活動である、論理思考や言語活動、理性やコミュニケーションといったものを司ります。ストレスを感じるのもこの脳の外側の部分です。
逆に「上丹田」が属する脳の中枢は、進化の初期からあったために、生存に必要な最低限の機能を備えています。
そしてその働きの中には「直感」というものも含まれています。
原始生物であるが故に、複雑な思考はありません。代わりに身の危険をいち早く察知する能力として「直感」を作動させていたのでしょう。
言い方を変えれば「直感」は素早い判断や、危険を察知するための、シンプルなセンサーとも言えます。

現代社会における人間生活では「論理思考」が優位にあるために、生物としての「直感能力」は、野生の動物たちに比べてはるかに劣っているということは疑いの余地はないでしょう。同時にそれは「上丹田」を眠らせ、衰えさせているという言い方もできます。

 

天才や達人は「上丹田」が覚醒している

時代を変える発明や、全く新しいアイデア、豊かな創造性は「上丹田」の覚醒から生まれます。
そのプロセスは「論理思考」とは全く違い、突然ポンッと落ちてきたような閃きの感覚です。
例えば「ポアンカレ予想」で有名な、数学者の「アンリ・ポアンカレ」は馬車のステップに蹴躓いた時に、突然重大な理論を閃いたというエピソードがあります。同様な話は、多くの発見や発明をした天才たちの伝記の中で枚挙にいとまがなく、論理では越えられないと思われていたことを、一瞬の閃きによって一気に突破することが往々にしてることを物語っています。

また武術においては、奥義の中に「心眼」「無念無双」という言葉があります。
この境地を分析すると、「何も考えない無の境地の中で、最適化された技が自ずと出る」と解釈されます。
一刀流の開祖「伊藤一刀斎景久」は、このことを「夢想剣」と称し、一刀流の奥義としました。

これらのことから、こうした特別な力を発揮するには頭を使わない、すなわち「論理思考」停止の重要性が浮かび上がってきます。

 

「上丹田」を覚醒させるには

気功の原則である「陰陽関係」から考えると、「論理思考」と「直感」は陰陽関係にあります。
よって「直感」を優位にするためには「論理思考」を抑えておく必要があります。
「気功」を行う際に、「無心」を心がける理由がここにあります。
「無心」とはすなわち「論理思考」の停止を意味にします。これにより陰陽関係により「直感」が作動します。
脳機能で言えば、前頭葉などの外側の働きは抑制され、逆に脳の中枢の辺縁系が活発になるのです。

この「無心」の状態のまま「中丹田」の真上に「上丹田」が乗ることによって「気」が「上丹田」に流れます。
これが「上丹田」の覚醒です。この時、インスピレーションが深まり、直感能力が冴え渡り、五感が研ぎ澄まされます。
よく宗教における修行などで長い時間瞑想を続けていると神秘体験をすることがあると言われていますが、それはこの「上丹田」の覚醒によるものです。
感覚が通常時より遥かに鋭敏になることであり、決して不思議なことではありません。
スポーツの世界では「ゾーンに入る」といった言い方があります。例えばプロ野球選手では「ボールがスローモーションのようにゆっくり見えた」とか、プロボクサーが「相手のパンチの軌道が見えた」といった話は多々あります。
これも試合の中の極限状態において、「上丹田」が覚醒した作用と言えることができます。

 

「上丹田」で判断することはストレスフリー

「上丹田」を活性化することで、もうひとつ大きなメリットがあります。
それは日々の生活の中で「ストレスフリー」となることができます。
この根拠に科学的な説明は難しいのですが、おそらく論理思考では「損得」や「利害」などを比較検討し、取捨選択することからストレスが生まれるのではないかと考えています。つまり取捨の「捨」とは自分の思考の一部分を「捨てる」こと、すなわち「否定」することです。
自らの考えを自ら否定することにより「ストレス」という感覚が発生するのではないかと考えます。

それとは逆に「上丹田」、すなわち「直感」でものごとを見ると、この「取捨選択」のプロセスを通さずに判断することができます。
これにより「自己の否定」をせずに行動することができ「ストレスフリー」となるのではないか、というのが私の考えです。
もちろん仮説の域を出ませんが、自らの身体経験から判断しても、大きく外れていないと思っています。
 

「下丹田」「中丹田」の開発は以下の記事を参照ください。


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気功の詳しい解説は下記の書籍にあります。
私の気功の師の一人である「盛鶴延老師」の著書です。ぜひご覧ください。

 

今回もご覧いただきありがとうございました。
何らかの参考にしていただければ幸いです。
次回もお楽しみに!
喜多原 歓喜地