合気の原理「透明な力③ 伸筋制御運動の認識」

こんにちは。喜多原 歓喜地です。
今回のテーマは「伸筋制御運動の全面的認識」です。

 
「伸筋制御運動」をしっかりと認識することで、そのための鍛錬や練習目的、各技法の理論が明確化してきます。
下記動画も参考にしながら、合わせてお読みください。

 
また「透明な力」と「伸筋制御運動」の詳細については以下の記事も参考にしてください。

 

「プロの動き」は全て「伸筋制御運動」によって行われる

武術のみならず、スポーツも芸事も伝統的な職人技も、いわゆる「プロ」の動きは単純に上手いだけでなく、見る人を魅了する美しさがあります。同時にリラックスと力強さが同居し、姿勢は常に真っ直ぐで優雅な風格すら感じさせます。

 
例えばプロスキーヤーは、物凄いスピードで滑降しながらも、膝はバネやスポンジのように柔らかく、そし上体は真っ直ぐブレずに維持されています。

 
スポーツの中でも最速と言われるシャトルを打ち合うバドミントンでは、高速のやり取りの中に、スマッシュのような剛のショットと、ドロップやヘアピンのような柔のショットが自在に混ざり合い、まさに緩急自在の動きです。

 
スポーツ以外でも、マジシャンの手先の動きや仕草は洗練を極め、流れるようにマジックを披露します。大工や鳶などの職人さんは高所でも平気で安定して作業し、長時間の力仕事も何日もこなします。熟練された料理人は驚くべき包丁捌きを見せ、流れるように料理を作り、あるいは寿司を握ります。

 
このように、どのような分野においても、専門家やプロと言われる領域の方は、いわゆる素人とは本質的に違う動きをしています。このような動きは果たして、通常の人間の動きが単純に上達すれば、誰でもできることなのでしょうか?

 
吉丸慶雪はこの点に着眼しました。そしてどのような身体操作においても、専門家と素人の動きは「本質的に違う」という結論に結びつけました。その動きこそ「伸筋制御運動」です。

 

「普通の動き」と「特別な動き」

どのような動きであれ、人間は長時間同じ動作をしていれば疲労します。そこに力強い動きやスピードを求めれらればなおさらです。
必然的に無駄な力の消費を抑えるために「リラックス」が必要となり、長時間安定するために「正しい姿勢」を維持しなくてはなりません。
極力筋肉の緊張は避け、同時に効率的な力を使うために、個々の部位ではなく「全身協調」による動作となります。

 
この条件をクリアする身体操作こそ「伸筋制御運動」であり、しなやかで力強く、長時間持続する運動を可能にするのです。

 
逆に言い換えると、どのようなスポーツや芸事も、通常の人間動作で行っている段階はまだ「初心者」あるいは「素人」の状態であり、「伸筋制御運動」で運用することができてはじめてその道の「専門家」あるいは「プロ」と言えるということになります。

 
よって吉丸慶雪は、「透明な力=伸筋制御運動」は、合気柔術に特化したものではなく、どのような分野においても運用されている力であると定義しました。

 

「伸筋制御運動」は自分では認識しづらい?

「伸筋制御運動」による力の運用は、個々の筋肉の収縮による力ではなく、全身が一つとなって、その体に流れる伝達された力となります。そのため、自身に力み感覚はなく、力を出したという実感もありません。
よって、「自分自身も認識しづらい力」なのです。

 
それが故に佐川幸義先生は、「透明な力」と名付けたのは言い得て妙と言えるでしょう。

 
スポーツや一般的な芸事の場合においては、熟練していくうちに自然に身につけるために、多くの人は「伸筋制御運動」を運用しているという自覚がないまま行っている場合がほとんどです。いや全てと言っても過言ではありません。

 
でもスポーツや芸事の世界では「伸筋制御運動」を認識していようがしまいが、あまり関係ないのです。競技においては成果や結果を出せばいいのであって、練習と経験を積んでいくうちに自然と「伸筋制御運動」を運用することができるので、あえて違う言葉で認識する必要はないのです。

 

「伸筋制御運動」を認識した武術界の功績

武道武術においては「伸筋制御運動」に相当する多くの言葉が示されています。
佐川幸義先生の「透明な力」をはじめ、塩田剛三先生の「呼吸力」や「中心力」、中国武術における「勁力」、他にも「丹田力」「円の力」「脱力」「相撲力」など様々な表現方法がされています。

 
これら様々な表現を一つにまとめたものが「伸筋制御運動」ということになりますが、大切なポイントは武道武術の分野だけが、これらの力は一般の力とは違う、「特別な力」と認識していたことでした。

 
ではなぜ、武術の分野だけが認識できたのでしょうか。
その理由は憶測の域を出ませんが、大きく二つの点があると思います。

  1. 自分の体の限界以上の力を必要とするため
  2. 伸筋制御運動を用いてさらなる技術(合気・発勁)を行うため

武術においては、自分よりもフィジカル面で優っている者に対しても対処する必要が出てきます。そのために、古来より自分の肉体以上の力を身につけるという思想に行き着きます。原始的な言い方で言えば「自然の力」や「大地の力」を借りる、と言った発想です。その発想の進化が中国ではのちに「勁力」と呼ばれ、特別な力として認識されという推察です。

 
もう一つは「伸筋制御運動」を使ってさらなる技術を扱うためです。
すなわち「合気」あるいは「発勁」の運用法です。「合気」や「発勁」を扱うためには「伸筋制御運動(透明な力・勁力)」をコントロールしなくてはなりません。ということはコントロール以前に「伸筋制御運動」を認識している必要があります。
このことが、これらの力を「特別な力」として認識し、通常の力と区別されるようになった二つ目の推察です。

 
近年ではスポーツやフィットネスの分野でもやっと「体軸力」や「センター」「インナーマッスル」と言った言葉が出てきました。それらは「伸筋制御運動」の一部には触れていますが、総合的な認識にはまだまだ及んでいません。

 
それに比べ、合気武術や中国武術の世界においては、プロや専門家が使う特別な力の運用「伸筋制御運動」を様々な呼び名で名付け、遥か昔からこの特別な力の「全面的な認識」をしていたことは、武術界における大きな功績ではないかと考えております。

 
 
以上、今回は「透明な力(伸筋制御運動)の全面的な認識」でした。いかがでしたでしょうか。なんらかの参考にしていただければ幸いです。
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今回も一読いただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみに!